スポーツ心理学

技能向上の心理

上達過程

上達はある特定の領域で、長期にわたる学習や練習を積むことにより、数多くの知識(Knowledge)や優れた技能(Skill)を習得すること。
熟達者(エキスパート)は、初心者よりもはるかに優れた行動が可能である。それは、Ericsonによれば、生来の素質というよりも、むしろ学習のための条件・環境の存在と、上達する過程で獲得したものととらえられる。従って、サッカー選手の上達を理解する上では生来の素質ではなく、練習の成果による上達を強く意識することが重要である。
選手指導において目指す上達は、サッカーのエキスパートになることであるといえる

2種類のエキスパート

エキスパートは知識・技能の柔軟性・適応性のレベルによって、2つの種類に分類されている。

機械的なエキスパート(routine expert);これは比較的単純な構造を持つ機械的な知識や技能に基づいて、情報を自動的に処理していくエキスパートである。従って少し文脈が異なる処理することができなくなる。同じことを何百回と繰り返すことにより、その技能が速く正確にできるようになる。

適応的なエキスパート(adaptive expert);
これは高度に構造化された知識と、柔軟で適応的な技能とを習得しているエキスパートである。
サッカーが目指すエキスパートは、状況の変化に応じて適切な解決方法を見出せる選手である。
日本サッカー協会の育成目標はクリエイティブでたくましい選手の育成」の継続である。従って練習をとうしてこのクリエイティブな選手に育つことが上達のゴールである。このクリエイティブな選手とは、様々に変化する状況に応じて、実践的な技術を発揮できる選手ととらえることができ、そうした選手はすなわち適応的なエキスパートなのである(adaptive expert)

優れた指導者の指導モデル

優れたサッカー指導者を対象とした研究によれば、指導者は選手の指導場面で、下記の3つの意図を持って指導に当たっている(北村、2005年の文献)。
一人一人の選手の技術を向上させる意図(基礎基本を徹底して指導し、選手の個性を伸ばし、多様性を身に付けるように指導する)
選手は自分で考えてプレーできるように意識を持たせる意図(練習の課題の必要性を理解を理解し、それが意識しなくてもできるように習慣化させるように指導する)
指導が効率よく動くような環境設定の意図(選手との有効な関係を構築し、また選手が練習に専念できるように練習環境を備える)


このような指導行動が目標としているゴールがクリエイティブな選手の育成なのである。



上達ののルール

認知心理学における近年の研究によれば、スポーツ、音楽、芸術、科学などの様々な領域における国際レベルのエキスパートは、1万時間以上にわたり、指導者による指導を伴った質の高い練習を蓄積していることが明らかとなっている。また同様に各分野で国際レベルのエキスパートは、10年以上にわたって練習を蓄積していると言われている。
ただしサッカーの場合で25歳に国際レベルのエキスパートになったとして考えても1万時間の練習ルールはあんまり現実ではない、30歳にエクスパートなったとしても今度人間の生理学的面から見て体力的に問題が始まるのでエキスパートになったとしても活動期間はあんまり続かない。。
したがって選手育成は長期にわたり、時間をかけて育てることが重要であることは間違えないでしょう。
認知的心理学領域の研究によれば、学習の上達を促す要因として次の要因が挙げられる。

注意深く組み立てられた練習;これは単なる反復練習とは異なり、パーフォーマンス向上のみを目的とした、高度に構造化された科学的・合理的練習であり、本来的に楽しみや報酬を伴わない練習と考えられている。特徴は遊びとは異なり、活動自体は楽しみを伴わないものである。ただし、練習の成果が上がればやる気が高まり、より練習に専心していく。パフォーマンス向上のみを目的とし、ここの選手の習熟度に合わせて課題が調整され、繰り返し練習することと同時にパフォーマンス遂行を注意深くモニターすることによって適切なフィードバックが与えられる。従って指導者による指導は重要な要素となる。


  1. 弱点の克服と技能習熟のために
  2. 個々の学習者に合わせて内容と難度が調整された課題を
  3. 繰り返し練習し、
  4. やった結果を注意深く見て
  5. 適切なフィードバックが与えられる練習

探求と熟考;探求とは、新たなものの追求を繰り返し、いろいろやってみることである。熟考とは、自分のやった結果を振り返り、確かめて検討することである。新しい課題を選手自ら取り込んだり、工夫して新しいやり方を試してみたりすることにより、選手は自分の持つ誤解を意識化する。そこから自分自身の行った成果を確かめて検討することで、より深い知識・技能の形成が進む。

サッカーは正しい答えが決まっていて、それをするための正しいやり方を見つけるのではなく、たくさんの答えと様々なやり方がある。そうした問題解決には、下記の2点が重要である。
■探索;自分なりの工夫で、新たなものを追求する
■熱考;
どのぐらい効果があったか確かめて検討する

能動的モニタリングの重要性

なんとしても成功したいと強く思う状況下では、

  1. 決められたメニューをこなすという受動的な練習態度から、より適切な解を求めて多くの探索をするという積極的なものへ変化する。
  2. 支持通りに与えられた練習をするのではなく、練習の中でいろいろやってみることにより、多数な知識と経験を責む
  3. 自分の考えややり方に弱点がないか問い直し、評価し、さらには他選手からもヒントを得ようとする。
  4. なぜそうなったのかを問い続けることにより、知識の再構造化を促し、応用的な力が高まる。こうした経験を能動的モニタリングという。

選手が上達していく段階に応じた指導のあり方が存在する。従って熟達化の各段階に応じた指導を行うことが、クリエイティブな選手の育成につながる。

熟達化過程に応じた指導;
Bloomの研究によれば、パフォーマンスはいくつかの段階を経て向上していく。従って、それぞれの段階に応じた指導内容や指導者のかかわりが求められる。

上達過程の段階的特徴

■導入期;スポーツに初めて触れた楽しむ段階、欲求が生じる
専門期;指導者による専門的な指導が開始される段階、夢中で取り込む
発展期;より高度な専門的指導に多く触れ、多くの時間や労力を増やす段階、自分らしさの発見 上達していく各段階では、学習者(選手)、支援者、(家族)、指導者(コーチ)、環境(施設、設備、練習内容、練習方法等)が異なる。従って指導者は、選手の上達のレベルに応じた指導環境を整えることが重要である。

例えば、導入期の選手の指導においては、指導者はできるだけプラスのフィードバックや賞賛を与え、選手がスポーツのあらゆる多様性を遊び、探求できるようにし、選手とともに動いて快体験を共有することが重要である。また、この期は、両親が選手を激励し動機付けるという大きな役割を果たしている。また、専門期の選手の指導においては、基礎基本の指導と同時に、選手に対してより高い水準の課題を要求し、より深く、より長い時間練習に専念することを要求することが重要である。そこでは指導者には、科学的な理論に基づいた合理的な要求が求められる。


■各期のキーワド

   導入期  専門期  発展期
学習者  快体験 没頭  自分らしさ 
支援者  共感 応援 激励
指導者  興奮 要求  評価
環境 興味刺激
利用性
体系的
多様性 
専門的
個別性

様々な領域のエキスパート選手は、共通した熟達化過程を経て、卓越したパフォーマンスを獲得している。すなわち、導入期での自由な快体験の蓄積、専門期における基礎基本の習得および発展期における高度で専門的な指導と豊富な練習量の蓄積といった熟達化過程をたどっている。

指導は、書道者や選手を取り巻く環境や状況によって大きく異なる。従って指導者がそれぞれの状況に応じて、自分で工夫して指導をつくり上げていくことが重要である。


さまざまな領域においての熟達化
サッカー以外の領域においても、上達の過程は、ほぼ類似した過程をたどっている。
例えばスヴェーデンの世界ランキング上位テニス選手;幼少期は田舎のテニスクラブで自由に伸び伸びとプレーを楽しんでいる。個人的な癖を直されたりしない。試合で勝つ経験を重ねる中でより高い目標が見え、プロコーチの下で練習を重ね上達していく。

サッカーブラジル代表選手: 幼少期から近所の子どもたちとストリートサッカーに明け暮れたいた。特に指導者はいなかった。とにかくサッカーが好きでたまらなかった。クラブのセレクションに合格し、専門的な指導を受け上達した。

指導にも求められる創造性
●練習方法や指導方法は、絶対これでなければならないというものではない。
●指導を取り巻く状況はさまざまであり、たくさんの事柄が影響を与えている。
●さまざまな理論に基づきつつ、指導者が自分で工夫して新しい練習や指導を作りだすことが大切。

運動学習理論

学習とは「同一のあるいは類似の経験が繰り返された結果生ずる比較的水続的な行動の変容」と定義されている。さらに運動学習を定義すると「練習もしくは経験による運動パフォーマンスの変化から推測される比較的水続的な内的変化の過程」となる。この定義でのポイントは「比較的水続的」という点である。一時的にパフォーマンスが良くなっても、それは学習したとは言えない。指導者が練習中に何らかの動きかけによって選手のパフォーマンスを一時的に改善させることがある。これで学習が成立したと考えるのは間違えである。同じようなレベルのパフォーマンスを水続的に発揮できるようになるまで関わらなければならない。そのためには、いつも選手に何らかの指導を与え続けることが必要なのではなく、選手をいかに自立させるか、つまり選手自信が自分のパフォーマンスを分析評価し向上のための方策を見出せるようにさせることが必要になる。


運動学習研究の成果を現場に生かす
●反復が大事
●コーチからのフィードバックが必要
●集中して練習する方が効果的
●自分の同作に注意を向けることが必要
●質を考える(頻度、タイミング、量・・・)


運動が上達するための練習方法やポイントについて、経験的に信じられていることが多く存在する。「とにかく繰り返し、厳しい練習をすれば強くなる。」「コーチがいなければ上手くならない。休みながら練習しても効果がない。」自分の動きを意識することによって動作はスムーズになる。これらは本当に真実なのだろうか?この真実を確認するために多くの運動学習に関する研究が蓄積されてきている。その結果、経験的に信じられていることと少し異なった見解が出されていたり、もっと質を考えることによって、より効果的に運動学習に影響することが分かってきている。


運動制御の理論
人間の運動を理解するために心理学では運動制御・学習といった領域で盛んに研究が行われている。そこではさまざまな運動制御に関する理論が提唱され、議論が行われている。ここでは代表的な2つのアプローチを紹介する。
ひとつは人間を一つの情報処理装置と見なす情報処理アプローチである。そしてもう一つが、人を複雑なシステムとしてとらえ、それを記述するといったアプローチである。それぞれのアプローチで得意、不得意があり、人間の運動を完全に説明できる理論はまだない。

情報処理アプローチ;人間を一つの情報処理装置として見なす
人間の運動は何らかの外部からの刺激を感覚受容器で受け、それを中枢で処理し、筋肉を使って身体を動かすといったシステムで制御されているといった考え方である。このシステムで運動の向上を考えると、フィードバックが重要な役割を持つことが理解できる。実際の動きがどのようなものであったのかという評価を本に、次の行動の時には処理を変えてより効果的な運動を出力しようとする。フィードバックと反復が運動学習の重要な要因であることが説明できる。
図;Sports Shinrigaku.pptx へのリンク


スキーマ理論




練習の多様性効果



文脈干渉効果




ダイナミカルシステムアプローチ;人は複雑なシステムであり、それを記述する新しいアプローチ。
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